サスペンションについて

日本語では、車体懸架装置と言います。
直訳すると車体支持装置の事です。
懸架の『懸』は懸垂として吊るすことを意味します。 又、『架』は架けるとか乗せるの意味です。
この部分は、タイヤ、ホイールと同様に路面からの情報を瞬時に吸収し、ボディーに伝える重要な役目をしており、私がよく言う10人十色と言いまして感覚としては、これはという結論は出ません。
10代後半の若者の気持ち良い乗り心地と、60代後半の方の乗り心地は、おのずと分かってきます。
それから、幅広い層のユーザーにある程度満足して頂ける性能を出すには、設計者が実際の感覚を味付けるテストドライバー及び色々な技術者と何度も練り直しながら仕上げていきます。
経験値はもちろん必要ですが、全てのユーザー層を満足させるにはやはり限界があります。
写真は、14年前のカリフォルニア州のチノ市にある飛行場でのスナップです。
チノ市のゼロ戦はマニアの方は当然ご存知ですが、当時、グァム島で捕獲され現在世界中で唯一フルオリジナルで飛行可能な機体なのです。
私は、戦争は大嫌いです。 が、小学校の3年生の時、当時、30円のプラモデルで戦闘機シリーズに出会ってから飛行機の虜になりました。
現在に至るまでゼロ戦は、ことあるごとに資料を集めております。 模型のラジコン機は、あるメーカーの試作機ですが、翼長2m50pの物も手に入れました。
本も、亡くなられた事を1ヵ月後に知り、涙が止まらなかった坂井三郎氏の全シリーズ等、雑誌もゼロ戦物が出るとつい買ってしまうくらいです。
1930年代後半に、全金属製の戦闘機を製作するにあたり、設計者の堀越二郎氏を始め三菱重工の技術員の技量と努力は、現在は書物でしか知ることは出来ませんが、細部を知れば知るほど感動を覚えます。
もちろん、戦艦、戦車とも自分なりに研究しましたが、飛行機は(中学生から高校生の過程で、自動車からオートバイに興味が移り、レーシングカーは小学校4年生の時に雑誌の写真を見てから現在の仕事に繋がっているのですが、、、)夢とか憧れの世界であり、自分で操縦する程、現実味がなかったのです。
しかし、技術的な面は絶えず飛行機からも情報を得ておりました。
身近な物では、アメリカのターボはB−29とか、P−38とかサンダーボルト等戦闘機のには、既に完成され装着されており、写真等で知っておりました。
又、空力については、当時は現在のようにコンピュータによる計測器やシュミレーションも正確なデータは掴みきれず、実機による飛行テストで実際にパイロットが体験しながら、改良されていくのです。
命がけで、、、。
ゼロ戦の事を書くと、興奮して色んな事をおせっかいにも皆さんにお知らせしたいのです。
今回は、そのアメリカに実機を何度か見に行った時、いつもはプレーンアンドフェイムというミュージアム(飛行場に隣接)の中に他の多くの飛行機と一緒に展示してあるのですが、偶然にもビデオ撮影の為に、他の戦闘機15機位と一緒に飛ぶというのです。
そしで幸運にもゼロ戦のコクピットに乗せて頂けました。 アメリカですね! その後、アメリカ人のパイロットが、ビデオカメラをコクピットの後部に設置されたこのゼロ戦を自分の目の前で、いとも簡単に飛び立たせていったのでした。
自分がコクピットに乗る時に注意があり、翼の脇から足をかけるのですが、翼の表面のアルミ版が薄い為、翼の中にゲタと言って、骨子がある部分を踏んで乗る様に指示がありました。 それ位ペランペランに軽量化されているのです。
又、乗っても良いと言われた時、君の靴底はラバーソウルか?と聞かれました。 ゴム(スポーツシューズの)ではないと、翼の表面を傷つける恐れがあるからでした。
そのようなボディー表面が薄皮まんじゅうの様な機体で宙返りの様な空中戦をやっていたと思うと、日本人はやはりクレージーです。 で、今回は何を説明したいかと言うと、添付写真の飛行機の足であります。 懸架装置(緩衝装置の方が正しいのか)です。
この足は、製作メーカーの銘板が付いており、名称は萓場製作所と明記されていました。
そのあのKYB(カヤバ)ブランドで有名なショックアブソーバーを主に現在も自動部品を製作されている会社です。
その当時の設計者、そして、製造過程に従事しておられた技術員の方々は、すでに現役を引退されておられるでしょうから、製作秘話等、沢山聞きたいですが残念であります。
現在、日本国内では三菱重工の設計図を基に一から部品を製作され、復元された機体をはじめ、SSリミテッドの原田氏のように個人で、世界に点在している機体を収集され、数機も復元され続けておられます。
自分のその仲間に入り、実際の部品を分解、再生、組付けのお手伝いをしてみたいです。
もちろん、現在の技術レベルには参考にはならないかもしれませんが、教えられるものが沢山あると思います。
純粋に感動します。
ゼロ戦オタクと言われるのが嬉しいノーテンキツルタです。
総体的に若者(もちろん女性も含みますが)は、硬い感覚を好み、年輩になるほど軟らかい感覚を好みます。
最近、日本のメーカーは、ユーザーの好みに合わせ味付けを変えています。
まずは米国、そしてヨーロッパ、中国、日本と、、、。
トヨタ車で言えば、セルシオのエアサスバージョンとユーロバージョンです。
究極のサスペンションは、アクティブサスとかエアサスなど言われていますが、これらは別としてトヨタ車の日本仕様とヨーロッパ仕様は、乗れば分かりますが(当地のレンタカーで)明らかにヨーロッパ仕様の方が硬い感じです。
それが証拠にマツダの最近の車両は、ユーロデザインとしてかなかなか粘った足を作ってきています。
ちょっと前までは、ベンツ、BM等のヨーロッパ代表車種を乗った方は国産車に比べ長距離で疲れないと異口同意に言われます。
自分も20年位前、BMW528を乗っていましたが、本当にあっという間に豊田から東京に行けてしまいます。
もちろんこれは日本とヨーロッパ、そして米国の道路事情による影響が大ですが、、、。
私共は、特にスポーツカーを扱っている事が多いので、おのずとハイスピード仕様にサスペンションを変更するお客様が多いですが、年輩の方でポルシェを足に乗っている方が低速時の突き上げ感があまりにも強く気分が悪くなるという事で、ショックアブソーバーの減衰力の低速域を軟らかくする事もしばしばあります。
基本的には、高速域ではより安定感を増し(ロールを少なくする)、低速域では突き上げ感をノーマルより少なくする事がストリート仕様の変更点です。
専門家が、これは良い足だと評価している車両を素人の方が乗ると、中高速域でのロール感が大きく恐さが出てきます。
専門家は、その速度域をある程度ロール感を出さないと(軟らかくしないと)限界までグリップしている事が危険と知ってるからなのです。
もちろん専門家(ここで言うテストドライバー)は、万人向けに仕様を決定するのですが、10代から70代までを一応考慮しながら決めるには妥協が出てきます。
それを解決するには、お客様に対して車両も用途別に分けてきました。
最近の国産車でも、ミニバン、セダン、スポーツタイプ、そしてその同一車種にもオプションとしてサスペンションを用意してきました。
ポルシェでいうと、カレラ、カレラS、GT−3、ターボ、ターボS、GT−2。
カレラとカレラSとでも明らかに車高が違い、バネレート減衰力が違っています。
GT−3は、よりサーキット志向になり、その中でも限定としてRSバージョンも発表されました。
現在の997は、電子制御で低速用と高速用を分けるようになってきました。
ご存知と思いますがGT−2は本来、ギヤ比とサスペンションは何種類かありニュル仕様とかオーダー時に選択できるのです。
日本では、ディーラー車は一種類だけですが、、、。
しかし、そうやって選んで購入された羨ましい方も含め、中古で購入された方は何処かに不満が残ります。
そこで、私共の出番がやってくるのです。
ノーマルもビルシュタイン製のショックアブソーバーが付いている車両もありますが、古い車両等は非分解式の物です。
これらの車両に関して、オーナーの現状での不満、又は、これからサーキットや峠を走りたいが、もっと何とかならないかと言う注文に対して、よりオーナーに促した仕様に作り上げて行きます。
レーシングカーでは、そのサーキットに合わせて練習走行時に毎回サスペンションの仕様と、そのドライバーの報告に基づき、よりタイムアップの為という事は、より乗り易いように、よりアクセルを踏めるように変更していきます。
これは、オーダーメイドであります。
もちろんノーマルのレベルは高いところにあり、素人の方はサーキットや峠等の過激な走行条件でも十分対応しますので、ある程度はノーマルでの練習、慣れをして欲しいです。
やみくもに変更することは、お勧めしません。
よく究極の足とか言ってサスペンションKITを販売されていますが、何を称して究極なのか、又、ユーザー側の希望を聞かないでどうやって満足するものが出来るのか、、、。
冷静に考えると究極なんていうものは存在しません。 作り出していくものなのです。
そのベースとなる物を選び、ユーザーの希望と専門家の意見を聞きながらチューニングしていくものと思います。
そして、その希望に合った、そして、乗り易く楽しく走れるサスペンションを得られた時にチューニングの醍醐味、満足感を自分だけが感じるのです。
そのお手伝いを適格に、低コストで提案出来るところが良いチューニングショップ(ディーラーも含め)と思います。
現在、ポルシェの評価をされている人で、ウォルターロール氏という方がおられます。よくカレラGTに乗って写っている方です。
彼は、年輩の方は良くご存知と思いますが、アウディーのクアトロとラリーで有名な方です。
その当時のクアトロターボは一世を風靡しました。
なぜクローズドサーキット(パーマネントサーキット)出のドライバーを使わず、ラリー屋さんを採用したか、もう読者の皆さんはお分かりでしょう。 ターマック(補走路)、グラベル(砂利道)、スノーの大きく分けて3種類の道路を縦横無尽に走行でき、評価できるのは、やはりラリー屋さんなのでしょう。
もちろんドライバーの中にはウォルターロール氏より腕の良いドライバーは、たくさんおられたでしょうが。
テストドライバーは、適格な現状把握と評価をしなければいけません。
彼が採用された要因は、他の人への伝言が上手かったのでしょう。
サスペンションは、車両の外観からは見えない地味なパーツです。 が、とても重要なパーツです。
馬車の時代から発明され、採用されていました。
現代では自転車にも採用されています。
ラジコンの4輪車は、皆さんも夢中になってチューニングされたと思いますが、バネを交換したり、ショックアブソーバーのオイル番定を交換して色々と仕様を変えて走り、タイムアップ、又は、操縦し易くなる事を実感されたと思います。
サスペンションをいじる事が、バネを硬くして車高を落としたり、ショックアブソーバーを変えて乗り心地を悪くしてまでサーキット仕様にするという事では無いのです。
車高を落とす事は、デザイン的にも走行安定、及び抵抗も少なくなるのである程度は良い事ですが、低速域でも中高速域でも乗り易くする事が一番の目標であるなら、車高を落とす事、すなわちサスペンションストローク(上下動の範囲)が少なくなりますので、悪路ではその効果が少なくなるので最小限にする事をお勧めします。
カイエンのエアサスペンションの様に車高が走行条件により、自動でも手動でも変化するのが理想ですが、高価ですし重量も増すのでスポーツカーには不向きであります。
ポルシェでさえ同機種で、サスペンションの味付けを変えているのですから、皆さん、大いに悩んでチューニングして下さい。
そうすると、私共も仕事が増えると、こういう訳であります。
スポーツカー最高峰のポルシェが自分に合ったチューニングをする事で、世界に1台のマイポルシェになるのです。


平成17年5月23日
鶴 田 昭 臣