エンジンパワーについて

最近の外車のパワー競争は、一時のスーパーカーブームや国産エンジンのチューニングを行っている国産のショップのように過激であります。
ベンツのE55.S55.SLRとのきなみ500ps以上を確保し、12気筒のツインターボも含め過吸器付きのオンパレートであります。
もちろん、アウトユニオン(現アウディー)と言われた時代のレースカー等にスーパーチャージャーが登場したのは、50年以上も前の時代ですので「別に驚きもしないよ。」と言われる方も多いです。 特に50代以上の方は、良く御存知でしょう。
ポルシェはどうかというと、1970年代に934ターボとしてル・マンレースに登場。 その後、930ターボとして最初のストリートカーは、インタークーラー無しでした。
縁あって1978年頃、934の整備をすることになり、T/Cを新品に交換して、試乗した(公道を)のですが、それはもう凄まじい加速でした。
まだ自分がコツコツ手作りで作っていた国産車(NA)のターボ付きで、1600cc(2TG)キャブターボが160ps位でした。 もちろんエンジンはノーマル仕様で・・・。
という事で、今回はエンジンパワーの話をしようと思ったのですが、中年のおじさん(高年ではない!!)の思い出話になってしまいました。
写真は、アメリカ東海岸のサーキット"デイトナスピードウェイ"での1枚です。
自分のとなりのおじさん(おじいさんという方が正しいかも)は、その当時、御歳70才のムービースター、ポール・ニューマン氏でおわせられます。
エーイッ 皆の者、頭が高い、ひかえおろ〜という感じですが・・・。 偉そうに自分がポール(呼びかけた時、ミスターニューマン!と叫んでも急いでいたようで振り向きもしなかったのです。 たまらず、ヘィ、ポール!!と失礼も省みず再度呼びかけたら、ポールのキャンピングカーの前で振り向いてくれたのです。 そこは、自分達のケータリング用テントの近くだったのです。)と呼びかけ、また失礼にも旅の恥をかきすてポールの肩に手を掛けての記念すべき1枚です。
なんでお前がデイトナに・・・。 それもレーシングスーツ姿でと疑問に思っておられる方々に説明しますと、確かこれは99年2月デイトナ24Hレースで、弊社とドイツのポルシェティームとの合同で参戦した時のです。
この年は、GT−3Rのデビューレースでした。 大体ポルシェ社は、ニューカー(レーシングカー)を年初めのデイトナでデビューさせ、データを取った後、改良するところは大至急改良し、同じ年のル・マンに参戦するのです。
もちろんその当時、アメリカルマンALMSでは、次のセブリング12Hにも改良して参戦(もちろん全車、カスタマーであるプライベートティームに)するのですが・・・。
この年のル・マンは、やはりプライベートティームとして参加しました。
ティーム名は、マンタイレーシング。 そうあのニュルブルクリンクの横に大きな工場をおったてられたオルファ・マンタイ(英語読みでマンセイ)氏でありました。
もちろんエンジニア、メカニックの中にポルシェ、バイザッハのメンバーがかためておったのは言うまでもありませんが・・・。(事実上のワークスでありました。)
ドライバーというと、その当時のポルシェカップシリーズの覇者ウーべ・アルツェンを頭にイタリア、ドイツ、フランスとセミプロドライバーが第1コーナーからダンロップブリッジ(あの有名な)あたりを、D1グランプリさながら(当時はまだドリフトグランプリでしたが・・・)のドリフトで各コーナーを毎周駆け上がっていったのを覚えています。 もちろんブッチギリのGT−2クラスのデビューレースウィン(初出場優勝・・・)でありました。
話は戻って、このデイトナで我がティームは、993GT−2レーシングでしたが、12時間過ぎにエンジンブロー(あるドライバーのオーバーレブによる)でリタイヤしました。 ドライバーの中に日本人、和田久氏も参加していました。
ポールといえば、今回も最年長者、そしてデイトナの象徴(長島さんみたいな)であり、毎年参加されていました。この年は最年少者、若干19才のドライバー(名前は忘れた。興味のないものはすぐ忘れる良い性格なので・・・)とコンビでありました。
この時GT−3Rは、レブ8500rpmに対して、安全パイの8000rpmをキープした3台位の完走車以外、他の大挙エントリーした20台位のGT−3Rは、カムシャフトの破損、オーバーヒート等のエンジントラブル続きで、ことごとくリタイヤしてしまいました。 大体、翌朝には殆んど・・・。 ポルシェでもこういう事があるんですね。
で、なんで自分がレーシングスーツを着ているかというと、2月のデイトナは天気は良くてもとても寒く、夜中は0℃まで冷えるのですが、その他にピット内は全員安全の為、耐火スーツを着用しなければならないルールがあるのです。
デイトナ24Hは、ドライバーは5人までO.Kで、出場台数もニュル24Hに迫る100台以上が参加できるのです。
ドライバーだけで単純に500人以上、それにメカニック等、皆レーシングスーツなので回りは皆ドライバーに見えるのです。
最近は、日本もそうなりつつありますが・・・。 F1は、そうですよね!
そんでもって70才で現役のレーシングドライバー、憧れますです。
自分もまだイケルと思っておるのです。 さすがにポールは、ロレックスデイトナをしていましたが、ヴィンテージ物ではありませんでした。
御存知とは思いますが、次いでなので・・・。
デイトナの優勝者には、各クラス1〜3位のドライバーに刻印入りのロレックスデイトナが副賞として贈られます。 確か4クラスから5クラスありましたから、20個以上のデイトナが・・・。 どこかその辺りのお土産売り場にデイトナが売っていたら、買ってきて!と気安くお友達に頼まれましたが、ありませんでした。 デイトナ24Hに出場して、ロレックスデイトナ(しつこいですが・・・)をただで貰いたいです。
忙しいです。これからル・マン、ニュル、デイトナとトリプルクラウンに出なきゃいけないので・・・。 まずは宝くじ、ですかね!!
チューニングした同じエンジンで2.0Lまでボアアップし、カムシャフトを交換、クランク、コンロットを強化しても250psでれば、かなりの金額をお客様は支払わなくてはなりませんでした。
当時のGCマシンのBMW2L4気筒や、BDAで200psでしたのでそれも速かったのです。
今は、ノーマルカーで996GT−2が480ps、GT−3で380psと、まるでレーシングカーの世界。
それでパワーステ、エアコン、カーステ、ナビ付きです。

戦国自衛隊ではありませんが弊社コンプリートカーの996GT−2 600psで1970年代のレース界に飛び込んだら、いくつものレース雑誌の表紙を飾って、インタビューを受けている自分の姿を時々夢を見ます。
ましてや現代の自動車メーカーのレースエンジンは、信じられない程の希薄燃焼で、ノッキングをしながら理論空燃比15:1を遥かに上回る数値でレースを戦っています。
F1は別として、ル・マン、JGTC、スーパー耐久等のGTカー、ツーリングカーでエンジントラブルは本当に少なくなりました。 それだけエンジンの耐久性が進化したという事です。
今は、レースに勝つ為には、まず良いティーム環境、良いドライバーの人間関係と、良いタイヤ及び良いセッティング能力、それから各パーツの耐久性でしょう。
現代の吸気制限と燃費規制のあるエンジンは、最高回転数での限界パワーを出すことが無いのもロングライフに大きく影響していると思います。
ポルシェのレースカー・エンジンは、24H、5000km(これはル・マンを目標しています。)までは、オーバーホールせずに使用できます。
その後のライフは、現地ポルシェマイスターのメカに言わせると、小さなパーツの交換でル・マンに3回以上参加できると・・・。
弊社も協力させて頂いたニュルブルリンク24H参戦の2000年モデルGT−3は、フルオーバーホール無しで2年続けて参加しています。
ターボエンジンのチューニングについても、ドイツのチューナーがチューンしたプライベートエンジンで700ps位まで上げているターボが、ニュルにここ数年続けて参加し、予選では驚異のラップタイムをたたき出すのですが、本番では一度もよい戦績を出していません。
原因としては、クラッシュとは別にメカトラブルが何時も発生しているのです。 これはプライベートの宿命なのか・・・。 最初の頃はミッションをよく壊していました。

話しは変わって、この996ターボ及びGT−2用ターボエンジンですが、弊社ではまだ600psしか出ていません。
ヨーロッパ、アメリカでは、700〜800位までパワーを出しています。
別にむきになっている訳ではありませんが、弊社ではトヨタの2JZ−GT(3Lターボ)、スープラ、アリストに搭載されているエンジンでは800〜900psと出してはいます・・・。
じゃ、なぜポルシェで出せないの?とこうなります。
答えは簡単。 現状の燃料ライン、ターボ、カムシャフトを使用したノーマルエンジンでは、600psが精一杯だからです。
国産車のチューニングのように、燃料ライン、インジェクター、ターボ、カムを交換するエンジンチューニングをして、大きなインタークーラーを付ければ700ps以上出るのでしょうが、ポルシェの使用上、日本のユーザーが600ps以上のパワーを日本国内で必要としないと思っているのと同時に、今後、車両がもっと安くなり、エンジンパワーアップにお金を出費できるお客様が出現されればお受けしたいとも思っています。
600ps以上はクラッチも強化しなければなりませんし・・・。
さらに、これ位のパワーになりますと、これは前にも言いましたがタイヤが完全に伝達出来ないのです。
弊社のお客様で、ラジアルタイヤを装着して、足を強化した600ps位の車両で高速道路を走行したら、恐い思いをさせた方ばかりです。 高速域200km位でアクセルON・OFF時に車体がよれる感じになるのです。
これは、ノーマルの996ターボ、GT−2でも多少は発生していますが・・・。
サスやボディーを補強しても最後はタイヤで変形、よれるのです。 これは、経験した方でないと理解できませんが、それはもうスリル万点であります。
パワーがあるので普通ではストレートに見える道路が、車速が急激に上がるのでストレートとストレートを繋いでコーナーになるのです。 この時、加速していてチョットビビッてアクセルを戻すとグニャリとリヤがパンクしたのではないかと思うくらい躍ります。
そこでSタイヤが登場するのです。
別にSタイヤの宣伝をするつもりはありませんが、ラジアルでは本当に危ないです。 大きなお世話ですが・・・。
この事は、前回にも書きましたが復習ではありませんが覚えておいて下さい。 事故を未然に防ぐ為にも・・・。
恐がる事は、決して恥ずかしい事ではありません。 勇気をもって自重して下さい。
しかし、エンジンパワーを上げて加速を楽しむ事は本当にスカッとするものです。 日頃のうっぷんを晴らすには、もってこいの代物です。
930ターボの加速から、965,993ターボ、996ターボと、ポルシェは確実にパワーアップという進化をしてきました。
それと共に、私共チューニング屋はエンジン(エンジン開発した)の絶え間ない努力を知ってか知らずか、ちょっとブーストを上げ、ECUを改造してお客様から手間賃を頂いております。
パワーアップ化はポルシェの場合、これからも続くと思いますが、どこまで続くんでしょうね。
毎度、テスト走行(サーキットで)をする度に、ヒヤヒヤする回数が増えるのは嬉しいような恐いような・・・。

自分の夢、目標は50過ぎてもル・マンやニュル、そしてデイトナに出場する事なので、今も動体視力を衰えさせないようブルーベリーのヨーグルトを毎日食べながら、夜はそれらを分解させるようなアルコールを毎日欠かさず飲んでいます。
夢の中では、いつもル・マンのポルシェコーナーを雨の中、オトットット・・・と言いながらD1グランプリと混じってドリフトしながら右に左にと華麗に抜けていくのですが・・・。(このコーナーは、悪魔のコーナーで多くのポルシェドライバーが、クラッシュしてメカニックを泣かせているのです。)
トヨタさんはと言うと、ターボ車とマニュアル車を嫌っているのか、どんどん無くしていて、ハイエース等のバンクラスでもマニュアル車は注文すると3ヶ月納期がかかりまっせ!と、暗にオートマを薦めているのです。(実はマニュアルミッションは、もう殆んど国内で製造されず、東南アジア等で製造されている為、納期がかかるのだそうです。)
最近はハイブリット車で、ついこの間のニュルブルリンク24Hは、ハリヤー(レクサス)ハイブリットで出場されました。 電動車の時代なのですね。
トルクの塊ですから、エンジンがまだ付いている間は、そのエンジンをターボ化して・・・。
どっちにしても古い頭のオイラの時代じゃないのですね。


平成17年7月14日
鶴 田 昭 臣